米国が年内に2回の利上げが出来ない場合のドル買い巻き戻しリスクとは?(下)【最近の相場傾向】

2018年に入ってから、ドルは他の通貨に対してよく買われ、米国経済も非常に好調な状況が続いています。
現在、マーケットでは経済が堅調であるが故、米国は今年4回の利上げをするだろうと予想しています(2回は3月と6月に既に実施済み)。そしてまさにこれが足下の要因になっています。

今回は、年内に残り2回の利上げが本当にできるのか、そしてもしも利上げ期待が剥落したらどうなるのか、どのようなケースで利上げ期待は剥落するのかを考察してみました(米国が年内に2回の利上げが出来ない場合のドル買い巻き戻しリスク)。
少し難しい内容も含みますが、適宜説明や説明のためのリンクを挿入していますので、初心者の方もぜひご一読ください。

なお、この記事は2ページ目になります。
いきなりここに来た方は、まずは(上)からお読みください。

本当に今年、あと2回利上げ出来るのか

当記事1ページ目では、2018年を振り返り、米国経済が好調かつドルインデックスを見ても他の通貨に対してドルが買われている、よって予想より早いペースで利上げが進められていくものと予想されているという話をしました。

そして、市場が今年3回目となる9月の利上げ予想を強く織り込んでいることを踏まえると、9月の利上げは既定路線と言えるものの、今年4回目となる、12月の利上げが実施出来るかどうかは現段階では不透明な状況になっているという話もしました。

ここでは、なぜ不透明な状況になっているのか、そしてそこから想像しうる、あるリスクについて解説します。

12月利上げが不透明な理由1:2回利上げに反対するFRBメンバーの存在

2018年8月20日、今年のFOMCで金融政策を決める際の投票権を有している、アトランタ連銀総裁のボスティック総裁が、今年はあと1回の利上げを支持するとの発言がありました。

逆イールド見込まれる状況では利上げに反対:アトランタ連銀総裁(Bloomberg)

当サイトでは、米国・欧州・英国・日本の中央銀行の政策決定に関わるメンバーが、金融政策に関してどのようなスタンスを持っているのかを下記ページにまとめていますが、

【毎月更新】各国中銀メンバー&タカ派ハト派マップ

このページの表のように、ボスティック氏は利上げに消極的なハト派な人物ではありません。
彼は年初から年3回の利上げを主張してきてはいますが、現段階でも年内はあと1回と主張していることは、12月の今年4回目の利上げに対する障壁になるでしょう。
当然、彼以外にも12月のFOMCで政策金利をどうするのかの投票権を持つ人物はいるものの、現在の段階では、年内あと2回利上げをするべきではないと考えている人物がいることを踏まえると12月の利上げが確実とは言い難いと思います。

12月利上げが不透明な理由2:トランプも利上げに反対のスタンス

また、同じ8月20日にトランプ大統領が利上げを断続的に実施するFRBを批判しました。

インタビュー:トランプ大統領、FRB利上げ「気に入らない」(ロイター)

トランプ大統領はこの日の発言のみならず、利上げに対しては否定的な発言を繰り返しています。
利上げがドル高につながることを不服に思っているでしょうし、利上げによって国全体の金利が上昇することは企業の借り入れコストを上昇させて消費を抑える効果があり、また不動産市況も悪くなるため、彼は快く思っていないのでしょう。

基本的に中央銀行であるFRBは議会からは独立していなければならないのですが、トランプ大統領の影響力も無いとは言えません。
ボスティック総裁や、トランプ大統領のように、年内2回利上げを行なうことに前向きではない人もまだまだいると言うのが現実なのです。

12月利上げが不透明な理由3:新興国経済不安

また、今月に入ってからトルコリラやアルゼンチンペソ、ベネズエラの通貨であるボリバルなど様々な新興国の通貨が大暴落していて、新興国経済不安が拡大しています。
新興国は基本的に経常赤字国であり、ドル建ての債務を抱えていることから、米国が利上げを実施すると自国通貨が売られやすく、債務の負担も大きくなって経済が悪化しやすいです。

新興国経済が大幅に悪化することによって、米国経済にも悪影響が出る可能性も十分にあるため、直近の世界経済において新興国経済不安が広がっていることは、現在の利上げのペースを遅らせる方向に働きうると言えます。

いずれにせよ、現在の段階で12月に今年4回目の利上げを行なう可能性が50%以上織り込まれているというのは高すぎる気がします。
そのため、もし12月に利上げが出来ず、今年の利上げが9月の3回目で打ち止めとなった場合には、期待が高かった分だけドル売りの反応も大きくなりえるでしょう。

ドルロングポジションが積み上がっていることのリスク

利上げ期待が低下するとロングポジションのクローズを巻き込みドルが大きく下落する

下記のチャートは8月14日時点のシカゴのIMM通貨先物のポジションです。


一時は15万枚ロングだったユーロもショートに転じているほか、円やポンドなどもショートが拡大していて、その反対の通貨としてドルはロングになっています。

シカゴの先物のポジションだけでマーケット全体のポジションを把握することは出来ませんが、冒頭で書いたように、米国経済が堅調だったことや、ここ数カ月の為替の値動きから推測するに、ドルのロングが積み上がっていることは間違いないと思います。

現在のようなドルロングがマーケットに溜まっている状況下で、上述の12月の今年4回目の利上げの期待が低下するようなことが起きたときには、現在のドルロングのポジションクローズを巻き込み、下落のスピードは非常に早くなり、その値動きは非常に大きなものになると思います。

まとめ:ドルが大きく下がるリスクが現在のマーケットには潜在している

  • 現段階で利上げ期待が高すぎる
  • ドルロングが積み上がっている

このような足元の状況を踏まえると、経済指標の極端な悪化や要人の発言などによって、12月の利上げ期待が剥落するようなことが起きた場合には、ここ数カ月のドルの上昇の巻き戻しが起こり、ドルが大きく下落する可能性が現在のマーケットには潜んでいると言えるでしょう。